前回の記事では経済成長の利点と課題について考察しました。
すると、こんな疑問が出るかもしれません。
「経済成長しなくても、現状を維持できればそれでいいのではないか?」
慎ましく、堅実な考え方のようにも思えますが、果たしてそれは現実的な選択肢なのでしょうか。
この記事では、「経済成長の停止」が実際にどのような影響をもたらしたのかを明らかにするために、
- 日本の「失われた30年」と他の先進国(G7)との比較
- 日本の「高度成長期〜バブル期」との対比
を通じて、経済成長の必要性を具体的な数字で検証していきます。
- 日本の「失われた30年」は他のG7諸国と比較して著しく低い経済成長率であり、日本の国際的地位の低下につながっている。
- 過去の高度成長期には、経済成長によって税収が拡大し、社会保障やインフラが充実した。
- 現状維持では社会保障も財政も維持できない。 経済成長こそが持続可能な国家運営の土台となる。
失われた30年とG7諸国の成長比較
1990年代以降、日本は「失われた30年」と呼ばれる長期経済停滞に突入しました。
この間、他のG7諸国は順調に経済成長を続けたのに対し、日本だけがほぼ停滞状態に陥ったのです。
国名 | 1990年名目GDP | 2020年名目GDP | 増加倍率 |
---|---|---|---|
アメリカ | 約5.9兆ドル | 約21兆ドル | 約3.6倍 |
イギリス | 約1.1兆ドル | 約2.7兆ドル | 約2.5倍 |
カナダ | 約0.6兆ドル | 約1.6兆ドル | 約2.7倍 |
ドイツ | 約1.8兆ドル | 約3.8兆ドル | 約2.1倍 |
フランス | 約1.3兆ドル | 約2.6兆ドル | 約2.0倍 |
イタリア | 約1.2兆ドル | 約1.9兆ドル | 約1.6倍 |
日本 | 約3.1兆ドル | 約5.0兆ドル | 約1.6倍 |
https://databank.worldbank.org/source/world-development-indicators
為替の影響はあるものの、傾向として日本の低成長は明らかです。
高度成長期〜バブル期との比較
日本国内でも、過去には高成長を経験した時代があります。特に1955〜1990年は「高度経済成長期〜バブル期」として、世界でも稀に見る経済拡大を遂げた時代でした。
区分 | 実質GDP成長率(年平均) | 備考 |
---|---|---|
1955〜1973年(高度成長期) | 約9.1% | 輸出・設備投資が主導 |
1974〜1990年(安定成長期) | 約3.9% | 石油危機後も安定成長 |
1955〜1990年平均 | 約5.7% | 加重平均による計算 |
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
この時期、日本は急激に税収を伸ばし、社会保障、インフラ、教育投資を拡大しました。
税収・財政収支の推移と経済成長
▍税収の推移
年度 | 一般会計税収(兆円) | 備考 |
---|---|---|
1970年 | 約5.3兆円 | 高度成長の中期 |
1990年 | 約60.1兆円 | バブル期ピーク |
2010年 | 約41兆円 | 失われた20年中盤 |
2020年 | 約63兆円 | 消費税で補填(法人・所得税は低迷) |
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/index.htm
税収は成長とともに拡大しました。
一方失われた30年では、消費税増税によって帳尻を合わせている状態です。
▍財政収支と国債依存
- 高度成長期:税収が支出を上回り、国債発行は主にインフラ整備の建設国債に限られた。
- 失われた30年以降:政府の財政は慢性的赤字。社会保障支出を賄うための国債発行が常態化した。
経済成長しないと「現状維持」すら困難
「現状維持で十分」という意見は、いくつかの前提を見落としています。
▍見落とされがちな事実
- 日本はすでに「現状維持」に失敗している
→ 実質賃金・可処分所得は減少、税収も低迷 - 社会保障は高齢化によって自然増していく
→ 経済が成長しない限り、国民負担は増大する - 成長しない国家は国際的地位を徐々に失う
→一時は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれたが、今では先端技術や文化面での影響力も限定的に。
成長こそが持続可能な社会の基盤
▍「成長なき税収増」は存在しない
- 税収は所得と企業収益の総和であり、それらの源泉が経済活動そのもの
- 増税だけで財源を賄おうとすれば、可処分所得を奪い、消費を冷やし、さらなる停滞を招く
▍社会保障の安定財源は「経済規模の拡大」によってのみ可能
- 成長すれば、負担を増やさずに財源を確保できる
- 成長なき状態では、世代間対立や制度崩壊リスクが高まる
おわりに
経済成長は「贅沢」でも「一部の人だけの利益」でもありません。
それは、社会保障、教育、防衛、そして未来への投資を持続可能にするための土台です。
「現状維持でいい」と考えてしまうのは、ある意味では日本がかつて豊かだった証ともいえます。
しかし、それは過去の遺産に甘えているだけに過ぎません。
成長を怠れば、私たちの子や孫の世代が、今よりも困難な時代を生きることになります。